2014/05/03

St-Martin運河での暮らし


 今日も晴れた。春先の新芽の匂いや風が運んでくる、初夏を感じさせる香りが心地いい。人の記憶というのは曖昧で、年を重ねるごとに必要のない記憶は消えていくんだなと実感するこの頃だが、香りはふとした瞬間に思い出す、忘れられない記憶だ。

 少しの間過ごした、St-Martin(サン マルタン)運河近くのアパートには、アフリカ系の家族が住んでいた。アパートの入り口を開けると、何とも香ばしいスパイスの香りが漂ってきた。だから今でも、スパイスの匂いはそのアパートでの暮らしを思い出させる。
 なぜか棚だらけの壁に囲まれた部屋に、小さなキッチンがついていたアパートの一室。中はMezzanine(メザニン)『ロフト』になっていて、長い梯子をトントンとうれしそうに上がる、猫のポチと暮らしていた。一風変わった、流すときにやたら轟音のする電気トイレ以外は、何不自由なく暮らしていたのだが。。
 ある日、夜の10時過ぎ、隣から壁を叩きながら叫ぶ声がする。「何時まで起きてんの、早く寝なさい」隣には階段で会う度に「お茶でも飲みにいらっしゃい」とやさしく声をかけてくれる老母が住んでいるはず?? 次の日、老母を訪れるといつもの笑顔。あれっと思っていると、その後何度もそんなことが続き、挙げ句の果てには、水道をひねっただけで壁を叩かれるようになり。。
 しばらくしたある日、ポストの中に、買い物袋に入った何だか得体の知れない茶色いものが入っていて、怖くなり、泣く泣く引っ越したという苦い思い出が。。昔は10時以降に物音を立ててはいけないという規則があったらしく、隣のおばあちゃんは少しの音でもいやだったんだろうな。私だけでなく、その部屋のどの住人も、半年も持たなかったらしいと後で聞いた。というわけで、アフリカのスパイスの香りは私にとって、あのアパートのおばあちゃんを思い出させる記憶だ。なんだかなぁ。

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